『探検隊の栄光』
荒木源 著
小学館文庫
※以降、ネタバレを含むかもしれないのでご注意ください。
テレビのいわゆる”ヤラセ”を、見ている側もエンタテインメントとして楽しんでいた昭和。過剰な演出とともに秘境を旅する、元プロ野球選手の杉崎が率いる探検隊シリーズは人気の番組であった。あるとき、幻の大蛇ヤーガを求めてジャングルの洞窟に踏み入った探検隊は、空になった薬莢を見つける。ほどなくして反政府ゲリラに捕まる杉崎探検隊。彼らの運命はいかに!!!???探検隊シリーズは、30代前半の私たちにとって既に若干落ち目のコンテンツであったのだけど、
それでも秘境探検モノとか、ビックリ人間モノとか、未確認生物モノなど、現在なら
各種団体や、いわゆる”視聴者様”に色々とクレームを付けられそうな番組を、
若干眉に唾付けつつ楽しんで観ていたものです。
(幻の大蛇”ヤーガ”なんて、蛇を意味する”ナーガ”を安直にもじったんだろうな・・・)
なんて今ならすぐに気付くし、そんな知識がなくともそういった番組のカラクリを
全開にしながら進む本著の展開に、最初は笑いながら読み進めていたのだけれど、
そのうちにだんだん笑いが消えて真剣に読んでしまいます。
杉崎探検隊を拘束する反政府ゲリラは3人。テロリストなどとは違うので、杉崎探検隊に
理不尽な暴力を振るったりなどはしないし、むしろちょっと人情味に溢れている男たちで、
クスリと笑ったりほんわかあったかい要素は散りばめられているのですが、
杉崎探検隊が拘束されながらの、ついにはゲリラたちまで巻き込んでの撮影続行や、
反対にゲリラたちと杉崎探検隊が共同で警官隊と戦う本物の夜戦など、
全編に「インチキ・非日常に対し、迷いなく取り組む」その熱さに感動し、
ただひたすらにページを繰る手が止まりません。
考えてみれば、私たちの仕事も杉崎探検隊の仕事も、世間の目に付きやすいかどうかの
違いはあれど同じようなものではないでしょうか。世界の人間全てに変革をもたらすような
イノベーションを起こしたのならともかくとして、世の中の仕事の大半は、多くの人間の
目に止まることすらないものであり、それに取り組むことは一見間抜けではありますが、
まずは自分ないしは家族を養うことができればその仕事には”意味”があり、
ごくごく一部の人間に「いいなこれ」と思ってもらえたならその仕事には”付加価値”があり、
そんな仕事にひたむきに取り組む姿勢は、少なからず周囲の人間に”感動”を与えるでしょう。
本著に満ち満ちているのは「バカを一生懸命やっている」そんな言葉では足りない、
真っ直ぐな男たちの感動的な物語なのです。
あ、因みにこの本は本来の表紙の上に2枚のカバーがかかっていまして、写真のカッコイイ
表紙の裏に隠された、まさに”番組制作の裏側を見るような”(誰うま)
もう一枚の表紙も必見ですよ!
寒い冬にこそ、熱い本を。一気読み必至ですよ!(*´ω`*)
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