『あのひとは蜘蛛を潰せない』彩瀬まる 著新潮文庫※以降、ネタバレを含むかもしれないのでご注意ください。
ドラッグストアの店長の梨枝は、28歳になる今も母と二人の実家暮らし。母に言われ続けた「みっともない女になるな」という”正しさ”が呪縛となり、生き辛い人生を送っている。それでも、蜘蛛を潰せない柳原さん、
大学生の三葉君との恋愛、薬物乱用頭痛持ちの”バファリン女”、ネット依存の義姉などとの付き合いや環境の変化を経て、少しずつ「大人」になっていく・・・本著において”蜘蛛を潰せない”とは、自分のことを自分で処理できないことを
意味する暗喩となっています。
梨枝の店で働いていた柳原さんという大人しめの男性は、タイトルどおり
倉庫に出てきた蜘蛛を潰すことができず、梨枝に始末させる頼りないおじさんであり、
ふいに年下のメンヘラ女を捕まえて、妻を置いて行方不明になってしまうような人です。
そんな柳原さんを冷ややかに見る梨枝ですが、彼女自身も女手一つで自分を育ててくれた
”かわいそうな”母と二人、端的に言えば共依存しながら生きており、
母の言う正しさから逸脱するような、自分で考えて行動することに怯えています。
その他にこの本に出てくるキャラクターたちや、現実世界に生きる私たちも、
”正しさ”と色々な形で付き合っています。盲目的に従ってみたり、逆らってみたり、
狡賢く利用してみたり・・・本著のメインテーマはそこだと思われます。
「正しい、間違い、優しい、ずるいなどが全てごっちゃになっているのが人間である」
言葉にしてしまうとこんなにシンプルで当たり前のことなのですが、
これでは私の受けた印象が、ほぼ別物に表現されているように思うのが何とも歯がゆいです。。
著者が独特の感性で描く、生々しいまでの人間像を是非ご一読いただきたいと思います。
まいねも梨枝と同じようなタイプで、年齢と身体だけは立派な大人ですが、
未だに子供じみたような悩みを抱えつつ日々を過ごしています。
だからこそ、梨枝のようなキャラクターを応援したくなるし、
完全にすっきりとはいかないまでもハッピーエンドを迎えますので、
”正しく”あろうとするあまり、普通に生きることに息苦しさすら感じてしまうような
アナタにおススメしたい一冊です。
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