『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』山田詠美 著幻冬舎文庫※以降、ネタバレを含むかもしれないのでご注意ください。
幸せな一つの家族になるべく、東京郊外の一軒家に移り住んだ2組の親子。ところがその再出発は、長男・澄生の落雷による死をきっかけに崩れてしまう。彼ら自身の述懐により、どん底から這い上がり温かい家族に再生していく様を描く。「幸せは努力して作り上げるもの」
”作り物の幸せ”と言うと、えっと思う人もいるかもしれないけれど、
誤解を恐れず断言します(改めて言うほどのことでもないんだけどねw)。
家庭の幸せを作ることは、血の繋がった家族においてなお難しいのですから、
この作品に出てくる澄川家のような、血のつながっていない家族なら尚更でしょう。
そして澄川家の不幸は、皆で作り上げるフワフワモヤモヤした幸せの、
形をまとめバランスをとる役目は”長男の澄生にしかできないと思い込んだ”こと。
理想の母親像と言っても過言でない母は、長男を喪ってから脳が委縮するレベルの
重度のアルコール依存症となり、生前にも十分大きかった澄生の存在感は
「あの母をここまで変貌させてしまう」
様子を目の当たりにした家族の中で肥大化していきます。
この作品は、澄生の死後のどん底から徐々に這い上がっていく様子を
家族のメンバ自身の述懐によって描いていきます。彼らの話は、一人称の語りとしては
あまりに名言めいているし、詳細がはっきりしている感が否めないのですが、
まるで暗闇の中で”不幸”の形をペタペタ触って把握しているかのように、
どん底の時期から再生に至るまでを淡々と語ることで、読み手としては
感情に流され過ぎずに当事者意識を持って読めるのではないかと思います。
”大切な人が死んだら、自分はどうなる?”
”自分が死んだら、大切な人はどうなる?”
ほんの少し、静かに考えてみる時間も良いのではないでしょうか。
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