『夜のみだらな鳥』ホセ・ドノソ 著(1970年)鼓直 訳(オリジナルは1976年、一度絶版を経て2018年2月再版)水声社※以降、ネタバレを含むかもしれませんのでご注意ください。
名家アスコイディア家に生まれた、望まれぬ畸形の子《ボーイ》。主人のヘロニモは歪んだ親心により、孤児と老婆たちが暮らす修道院の中に、畸形だけを集めた施設「少年の家」を作り、作家であり秘書であるウンベルト・ペニャローサにその管理を任せる。ウンベルトは少年の家で聾唖の《ムディート》の仮面をつけて暮し、その悪夢のような日々を語る…まいねの好きな読書ブロガーさんが”最高の毒書”として挙げており、
「読む悪夢」
「再版されたこと自体が事件」
とまで言わしめた一冊。
…いやぁ、読むのに半年以上もかけてしまった本は初めてですわ(汗)。
上述のあらすじにいくつか補足。
・ウンベルト・ペニャローサ自身は下流階級の生まれ。
階級差の逆転は難しい時代だっただけに、父親とともにヘロニモに対して
強い劣等感を持っており、その劣等感(と少々の文才)を買われ、
ヘロニモの秘書として雇われることになる。
・ヘロニモは特殊な性癖の持ち主で、セックスをウンベルトに覗かれることでしか
性的機能が発揮できず、また、近親相姦?であったため
畸形の子《ボーイ》が生まれることになった。《ボーイ》を身籠ったイリスは、
修道院の中に入れられることになる。
・少年の家は《ボーイ》をいわゆる”正常な”人間たちから隔離し、”畸形こそが正常”
という閉じた世界を作り出そうとするもの。
ヘロニモは(外では迫害されてきた)畸形たちを集めるとき
”「正常=美、畸形=醜悪」なのではなく、「同じ美の中に正常と畸形が存在する」”
と説得する。
・老婆たちは、《ボーイ》をヘロニモからの援助を当てにしながら養育し、
修道院の中の老婆たちという閉じたコミュニティ内で過ごしているうちに、
《ボーイ》を処女受胎した奇跡の子と思い込み、
この子の世話をすれば、やがて自分たちも天国に導かれるものと妄信する。
ざっくりと言えばこんなところでしょうか。
…正確に骨子を掴みきれているか、あまり自信はありませんが。。
本著は上記のあらすじで書いたようなことを、
”正常と畸形”、”現実と妄想”、”原因と結果”、”自分と他人”という境界線を取り払い、執拗なまでに反復して描いている作品と捉えれば良いと思います。
ヘロニモ=ウンベルト=《ムディート》=《ボーイ》であり、それぞれ別の人物でもある。おとぎ話と現実がリンクする。未来の出来事が、現在同時に発生している。何を言っているのか分からないと思いますが、自分でもよく分からないですw
上記のようなことが「ただ読者を混乱させる」ためでなく、
歴史的事実を折り混ぜながら、整理できるようにほんのりヒントが散りばめられており、
数ページごとに、今まで自分が思い描いてきた作中の人物相関図や時系列などが壊され、
眩暈を覚えるような混乱と共に、ヒントを基に再構築を行っていく…
といったことを繰り返しているうちに、時間が経ちすぎてしまいましたw
#もうちょっと一気読みした方が分かりやすかったかもなぁ。。
これと比べたら”読むと精神に異常を来す”なんて触れ込みで話題の
夢野久作『ドグラ・マグラ』なんか100倍カワイイ!って思えるほどの毒書体験でした(・_・;)
…しかし訳者の鼓直さん(岡山出身)、よく翻訳中に気が狂わなかったなと
そこもビックリですわw
とんでもないクセとボリュームのある作品ですが、ラテンアメリカ文学の傑作の一つ、
読める体力があるうちに読んでおいたほうが良いかも?( *´艸`)<”こっち”へおいで…
[1回]
PR