『あつあつを召し上がれ』
小川糸 著
新潮文庫
※以降、ネタバレを含むかもしれないのでご注意ください。
主人公たちのそれぞれのエピソードとともに、彼らの記憶に一生刻まれるであろう甘く優しく、時にほろ苦い料理の数々。官能的ですらある食事シーンと共に、
感動の涙とよだれが止まらないこと請け合いの7つの短編集。
地元の友達が”食欲の秋だし”とおススメしてくれた本のうちの一冊。
小川糸さんは『食堂かたつむり』辺りが有名で気にはなっていたのですが、
何やかや機会を逸していた方なので、今回の紹介は渡りに舟って感じでしたw
『あつあつを召し上がれ』というタイトルから入って、
短編一本目がかき氷にまつわるストーリー。まさかの先制パンチに面喰ってしまいますが、
いやしかし、見事にやられましたね。
誰もいないオフィスで読んでいて嗚咽が止まらなくなるような感動ストーリー、
まさか自分があつあつの涙を召し上がることになろうとは思いませんでした。
(汚い。さすが小川汚い)
…何だか熱い風評被害のような感想を抱いてしまいましたw
ある映画好きな方が(ディティールは少し違うかもですけど)
「映画は映画館で見るべき。映画本編だけでなく、往き帰りの道での出来事や、
音、匂いなどいろんな感覚と共に、映画が身体に刻まれるから」
って言ってまして、本著を読んでその言葉を思い出しました。
傍から見ると主人公たちのエピソードとそこにある料理は、
ちぐはぐな感じすらするほど結びつかないのですが、
しかし彼らにとっては一生忘れられない味になるだろうなというのが
容易に想像できます。自分にとってそういう”味”は…と色々思い出していると
(一人で飯食ってる場合じゃねぇ!)と、外に飛び出したくなってきますよ!w
小説ですのでストーリーがメインではありますが、
所々にズキュンとくるような味の表現が散りばめられています。
特にお気に入りはぶたばら飯の餡についての記述。
あんは艶々と光っていて、熱で形をなくした宝石のように鈍い飴色に輝いている。何かもう「うわぁぁぁ!」って感じw詳細な味の構成についてまでは記述されていませんが、
大きなどんぶりの中に艶々ふっくらたっぷりの飯が盛られ、その上には、
一目で味が肉の細胞の一つ一つに染みていると分かるような
厚さ1cmほどの豚ばら肉が隙間なく敷き詰められ、
こっくりとした醤油と八角が利いたあんの香りが湯気と共に鼻の中から入ってきて、
うっとりとする。ごくりとつばを飲み込み、箸なんかじゃまだるっこしくて
おもむろにれんげを手に取り、飯:肉=1:1のバランスに調整して乗せ、
フーフーするのもそこそこにハホっと頬張る・・・
今までの経験から味を想像し、まさかの大規模自爆メシテロ!
こりゃ白旗を振らざるをえません。参りましたっ!w
食欲の秋と読書の秋がいっぺんに楽しめて一石二鳥な本著、
感動的なストーリーと脳で味わう料理の数々、非常に美味でございました。
夢中になってしまって、半日と掛からず読みきっちゃうほどでしたよ。
使い古された言い回しだけど、あえて言いましょう
『あつあつを召し上がれ』は飲み物です!w
皆様も是非ご賞味あれ~(*´ω`*)
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