『禁酒宣言』上林 暁 著坪内 祐三 編ちくま文庫※以降はネタバレを含むかもしれないのでご注意ください
チョイと一杯で済ませるつもりもないが、いつの間にやらはしご酒。酒にも飲まれ、煙草にも喫まれ。酒場の女にはいいようにあしらわれ、家族には愛想を尽かされ…”られ””られ”羅列の人生千鳥足、されど酒はやめられぬ。筆者の経験を基にした、酒に溺れた男の魂の叫びを淡々と描いた私小説集。歌の文句じゃないけれど、まいねもまた
「
親父みたいなヨォ、酒呑みなどにならぬつもりがなっていた」
のでして、外食と同じように家呑みも好きなので、この本の主人公ほどひどくないとはいえ
外での酒の失敗も、恥ずかしながら多々あります。
そしてこの”主人公ほどひどくないとはいえ”が、本著のミソという気がします。
もうね、この主人公(著者)はホンッとに酷い。
本著の中ではあまり語られませんが、著者が酒にのめり込むきっかけになったのは
妻を病気で亡くしてからだそうです。
とはいえ、ですよ。
ロクに父親としての役割を全うもせず、嫌味を言われ(というか図星を指され)、
身体を壊して友人には本気で心配され、酒場きっかけで得そうになった良縁を深酒で不意にし、
(ホンマ、なにやってんじゃこのオッサン!)
と、読んでいてイライラします。
そしていつか、誰かが言っていました。
「イライラしてしまうのは、”いつか自分もこうなる”可能性を薄々感じているから」
なのだと。本当は(自分もこうなるんじゃないかな?)と思っていて、
だからこそ主人公が立ち直る(そして自分が安心する)ストーリーを期待し、
そうならないことにストレスを感じてしまう…という心の流れなのでしょうか。
しかし、これが不思議なもので…イライラさせられるのに、
不思議と続きを読んでしまうんです。
このオッサンはどうしようもなくて、立ち直る可能性がないことをほぼ確信し、
次のページでもイライラするであろうことが分かっているのにです。
誤解を恐れず言えば抜群に面白いとか、深みがあるとか言った類の
小説ではないので(飽きたら読みやめればいいじゃん)と思って読んでるんです。
(ほら、やっぱまた恥の上塗りだよ。相変わらず仕様がねぇなぁ)と思うんですけど、
(ま、次ぐらいでやめにしとくか)とついページをめくってしまい、
(ここまで読んだらまぁ短編の最後まで…)になり、
(ほら、やっぱまた…)のくり返し。
『禁酒宣言』というタイトルながら、本著そのものが酒のような魔力を秘めているのが
逆説的で面白いところです。
本著のテーマはたまたま”酒”ですが、
各々やめられない”何か”を当てはめて読んでみると良いかもしれません。
イライラさせられるのに、不思議と共感してしまっている自分に気付くかも。
それじゃ今晩も、仕様もない酔っ払いを肴に、乾杯♪
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